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環境負荷の少ないハロゲンフリー電線

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CASE STUDY

環境負荷の少ないハロゲンフリー電線

数万パターンにおよぶ樹脂配合比の検討と10分の1ミリレベルの細径追求を経て環境負荷の少ないハロゲンフリー電線を開発

 「エレクトロニクスの塊」とも称される現代の自動車において、ワイヤーハーネスの重要性は高まるばかり。しかし一方で、塩化ビニル(PVC)を含有する電線は環境に悪影響をおよぼす恐れのある部材として、改善が求められていた。 自動車用ワイヤーハーネスの研究開発を受け持つオートネットワーク技術研究所と、設計・製造担当の住友電装、そして事業企画と営業を担う住友電工は、三位一体となってこの課題に取り組んだ。新素材を用いながら電線の強度や難燃性の確保、そして細径・軽量化に取り組むこと5年。試行錯誤の末、導体断面積0.35mm2という極細のハロゲンフリー電線を実用化させた。

※ 現在はさらに細径化が進められ0.13mm2までラインナップ

住友電装株式会社 電線事業本部 開発技術部 開発2グループ 吉本 潤 株式会社オートネットワーク技術研究所 電線・材料研究部 電線研究室 佐藤 正史 株式会社オートネットワーク技術研究所 電線・材料研究部 電線研究室 主任研究員 井上 正人

目的・要望

ダイオキシンを排出せず、燃費向上にも貢献する電線が欲しい

 排ガスや産業廃棄物による環境汚染に対する厳しい視線が注がれる中、自動車用電線では97年に「鉛フリー」という新素材が誕生していた。 しかしカーメーカーは、さらなる進化を求めていた。プロジェクトの最前線で技術開発を行った吉本は当時を振り返って言う。 「電線の絶縁体として用いている樹脂には、主にPVCが使用されています。PVCは埋立てか焼却で処分されるのですが、焼却処分の場合、ダイオキシン発生の危険性がある。 カーメーカーは他業種以上に環境への配慮が求められるため、PVCの削減、あるいは廃止をぜひとも達成したいと考えられ、私たちに技術開発をご要望されました」

 PVCを構成する塩素は、臭素などとともに「ハロゲン族」に分類される。顧客からの当初の要望は、塩素のみの削減だった。しかしそれでは完全な環境負荷の低減にはいたらない。また、将来は必ずハロゲンの廃止も社会的課題となるはずだ。そう考えたプロジェクトチームは、顧客との話し合いを経て、あえて技術レベルの高いハロゲンの全廃を目指すことにした。

 しかし、ハロゲンフリーだけでは「環境負荷の低減」という、カーメーカーの本来的な目的を達成したことにはならない。 自動車には、全長 3000m、重量にして約40kgものワイヤーハーネスが使用されている。そして、ワイヤーハーネスの量は今後も増え続ける。 重量増は燃費の低下につながり、結局は環境に悪影響を及ぼすのだ。

インタビューの様子

「細く、そして軽く。これを追求することが、お客さまに対して我々が負っている責務なのです。」 15年にわたって電線の開発に携わってきた井上が言うように、開発のプロセスは細径・軽量化の道のりでもあったのだ。

 そしてもう1つ、「言わずもがな」の要望があった。 新素材・新技術を用いながらも、性能・価格ともに従来品と同等以上であることだ。 3つの大きなテーマを抱え、プロジェクトは本格的に稼動した。

課題・プロセス

だれも実現したことのない耐摩耗性と難燃性の両立に挑む

 PVCに代わる素材は、オレフィン材が以前から広く知られていた。 しかしオレフィン材の価格は、安くてもPVCの2倍。そこでプロジェクトチームは、オレフィン材を使った被覆部分を薄くし、コストを抑えようと考えた。ところが大きな課題に直面する。鉛フリーの開発時代から電線の研究に携わる佐藤は言う。

「振動や高熱にさらされる自動車用ワイヤーハーネスでは、高レベルな耐摩耗性と難燃性が求められる。ところが、被覆を薄くすると強度が低下します。さらに厄介なことに、オレフィン材は非常に燃えやすい。難燃性向上のために金属水酸化物を配合する方法がありましたが、十分な難燃性を持たせるだけの量を配合すると、今度は耐摩耗性が著しく低下する。従来品より薄く、なおかつ耐摩耗性と難燃性を両立した被覆を作るためのオレフィン材と金属水酸化物の配合比とは —。これを見つけ出すことが、重大なテーマになったのです」

 実験した配合比は、数万パターンにも及んだ。気の遠くなるような作業から活路を見出せたのは、住友電工グループの総力を結集できたからだ。

「当時、プロジェクトに関わるグループ3社が月に2回は集まり、情報交換を行いました。他事業で開発した素材の情報や過去に取り扱った電線のノウハウを持ち寄っていたのです。その中で、『役立つのでは!』と思ったものには、実際の担当者にまで話を聞きに行きました。このプロセスなしに、ハロゲンフリー電線は誕生していなかったと思います」(吉本)

インタビューの様子

 被覆の配合比を追求する一方で、導体そのものの細径化も進められた。 ここで採用したのは、撚られた導体を圧縮して断面積を小さくする、国際規格である ISO規格に準じた「圧縮導体構造」。 断面が円形である素線を撚ると、どうしても素線同士の間にすき間ができる。これが細径化の阻害要因だった。 また、撚られた導体の周囲も均一な円形にならないため、ここでもすき間が生じる。結果、すき間を埋めるために被覆の樹脂量が増え、軽量化を妨げていたのだ。 しかし、このISO規格の圧縮導体を使えば一気に問題は解決する。

「導体を圧縮することにより、断面積を保ったまますき間をなくすことができる。つまり、性能を維持しながら細径・軽量化が可能になったのです。この技術なくして今回のハロゲンフリー電線はあり得ませんでした」(井上)

技術・製品

ハロゲンフリーが車選びの新要素になった

ハロゲンフリー電線

 こうして開発されたハロゲンフリー電線の被覆は、厚さわずか0.2mm。従来品から0.1mmの薄型化に成功した。また、導体の直径も断面積0.35mm2のもので0.8mmから0.7mmへの細径化に成功。それぞれたった10分の1mmの差といえ、コストと環境に対する好影響は計り知れない。この成果が評価され、2002年、アルファード(トヨタ)やアコード(ホンダ)に相次いで採用された。

「アルファードのカタログでは、ハロゲンフリー電線の使用が紹介されました。これは、環境への配慮がデザインや居住性、運転性能などと同様に、車選びの重要な要素として認知された証と言えます。私たち電線の技術者にとっても、画期的な出来事でした」(井上)

インタビューの様子

 現在、日本の大手自動車メーカー数社にハロゲンフリー電線を使用した住友のワイヤーハーネスが採用されている。社数・搭載車種数ともに今後も拡大が確実。次なる目標は、エンジンルームへの採用だ。そのために、耐摩耗性・難燃性の両面での向上を図っている。 また、電子化の進展とそれにともなうワイヤーハーネス数の増加に対応するため、より一層の細径・軽量化に取り組んでいる。

自動車が進化する限り、住友電工グループの電線技術も進化を続けていくのだ。

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